境界線[上]

「襧豆子ちゃん!おまたせ!」
明るい声と共に真菰が教室へ戻ってきた。

借りていた席から立ち上がろうとすると「あ、無一郎くん、そのままでいいよ」と真菰が手のひらを見せて制す。

「真菰ちゃん、おかえり」
「ごめんね遅くなって〜。購買混んでてさ。みんなで一緒に食べよう!有一郎くんも座って。錆兎も〜!」

こっちこっちと呼ぶ真菰と、やれやれと立ち上がり近づいてくる錆兎。中等部の頃からの馴染みある光景だ。ちょうど襧豆子が座ってる席を囲むように、いつものメンバーで座った。

野次馬たちが散っていくのを視界の隅で確認する。男子生徒によって作られていた壁がなくなり、廊下に面した窓が見えるまで視界が開けていく。しかし何人かの男子生徒は、まだ居座り続けているようだ。メガネをかけた気弱そうな男子が一人と、ガタイのいい男子が二人。窓枠に手をかけてこちらを見ていた。

なぜだか妙に気になった。
メガネをかけた男子が必死で笑顔を作り、必死に首を振っている様は、まるで何かを拒絶しているかのようで。威圧感を与える男子二人に挟まれ、逃げ場のない状況を作られていた。とても仲のいい友人同士には見えない。


「無一郎」
ふいに兄さんから声をかけられた。
探るような目で問いかけてきたので、頷いて肯定を示す。

襧豆子たちが談笑をしながら食べ始めたので、意識をそちらに戻す。しばらくすると三人はいなくなっていた。

小さな胸騒ぎを感じていたのに。
襧豆子が嫌がるだろうとわかっていても、あの時すぐに行動すべきだったんだ。

それが、
たんなる引き金の一つに過ぎなくても───。
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