境界線[上]

「ん、美味しい」

「…び、びっくりさせないでよ…!ちゃんとお弁当箱に移したのに」

「いいじゃん別に」

「「よくない」」
かぶせてくるように襧豆子と声を揃えたのは兄の有一郎だった。いつの間にか襧豆子の隣に立って、呆れたように僕を見下ろしている。

「ったく。恥ずかしいことすんなよ」

「有一郎くん。昼休みに来るの久しぶりだね」

「こいつにパシられてたからな。ほら無一郎」
そう言って、手にしていたナイロン袋からプリンを一つ取りだしてきた。購買部で売られているプリンだ。続けて、ほら襧豆子の分ともう一つ袋から出してくる。頼んでないよと遠慮する襧豆子を、ついでだと兄は制していた。

兄さんも演技がうまいな。
プリンを眺めながらこっそりと思った。口裏を合わせずとも、その行動の意味をすぐに理解できた。

襧豆子が心配で様子を見に来たかったんだろう。プリンなんか頼んでないのに、わざわざきっかけを考えてまで。少しでも野次馬たちの目から隠すように、今も自然な様子で襧豆子の隣に立っている。すぐに気づいてしまうのは、僕たちが双子だからという理由も大きいが、それ以外にもあった。

同じ瞬間に、同じきっかけで、ずっと僕たちは彼女への恋心を抱えている。
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