好きな子

「こ、こう…?」
彼女の白い手が遠慮がちに伸びてくると、髪の流れに沿うように、ゆっくりと優しく撫でてくれた。自分で頼んでおいて本当に子どものようだと、胸の中で嘲笑する。

この手を掴んで、このまま引き寄せてしまおうか。湧き出す感情を振り払う。

まだ、その時じゃない。
この気持ちは、まだ出せない───。


「………俺だったらよかったのに」

「え?」

「………ううん。ありがとう。襧豆子」
立ち上がり、やっと動きだした僕を襧豆子が不思議そうに見ていた。

「おわったらまた来るね。ちゃんと休んでるんだよ」

「…うん。頑張ってね」

彼女に手を振って、保健室を出た。
廊下に出て窓の外を見ると、慌ただしそうな様子の生徒たちがちらほらと行き交う。もうすぐリレーが始まる時間だ。早足で玄関口へ向かう。

歩きながらポケットに手を入れると、入れっぱなしだった一枚の紙が出てきた。

"クラスメイト"と一言だけ書いてある紙。そっと握りしめると、近くの教室のゴミ箱へ捨てた。
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