好きな子

*無一郎side*

体が勝手に動いていた。自分を動かしているこの気持ちの正体は、とうの昔から知っている。

襧豆子と兄さんが近づいてくる僕に気づいた。頬が赤い襧豆子を見て確信すると同時に、言い知れぬ黒い感情が胸の内で暴れだす。

「無一郎く───きゃあっ!」
襧豆子を抱き上げると、ふれた先から熱が伝わってくる。確信が更に確信に変わった。

「保健室行くんでしょ?僕が連れていくよ」

「…保健委員がいるだろ」

「このまま運んだ方が早い」

「自分で歩く!おろして!」
腕の中で襧豆子が足をバタバタさせる。熱があるからだめだと告げると、なんで知ってるのかと不思議そう顔をしていた。


校内へ向かう途中、クラスメイトが次々に駆け寄ってきて労りの声を上げる。残りの競技の合同リレーに参加できないことを何度も襧豆子が謝っていた。そんなことを気にする人はここにいない。後は任せろと言いながら、クラスメイトたちのピースサインを見て、やっと襧豆子が笑った。

おろして。歩ける。二言だけを繰り返す襧豆子を無視して、保健室へ向かう。隣を歩く兄さんが何か言いたげな表情をしていたけど、気づかないふりをした。
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