好きな子

土と草の匂いが漂う。
どこかで悲鳴が聞こえて、痛がる時間すら惜しい。

急いで襧豆子の様子を確認する。
顔は地面に打たれてない。繋がれている足も、捻った様子もない。声をかける前に、襧豆子から先に声が上がる。

「ご、ごめん!!!大丈夫!?」
頬を真っ赤にして、俺の腕を優しく包んだ。地面と擦れて軽い傷にはなっているが、大したことはなかった。

「ごめん!ごめんね!腕…頭も…大丈夫!?打ってない!?」泣きそうな顔して、腕や頭にふれてくる襧豆子の手を掴む。大きく開かれた桃色の瞳は、今にも涙がこぼれそうなほどに潤んでいた。



「そんな顔すんな。大丈夫だから」
ただ安心させたいだけなのに、少し強めの口調になってしまう。そんな自分に舌打ちをしたくなる。襧豆子の下がり眉が、更に下がった。

「襧豆子、保健室行くぞ」

「う、うん!有一郎くんの怪我、手当てしてもらおう!」

「俺じゃなくてお前な?」
へ?と不思議そうな顔をする襧豆子は後回しにし、紐をといた。駆け寄ってきた先生に事情を説明して、持っていたバトンを渡す。


「熱あるだろ。顔めちゃくちゃ赤い」
言われた襧豆子が自分の頬に手を持っていき、熱を確認する。今の今まで気づかなかったと、そんな表情をしていた。

「今日はなんか暑いなぁとは思ってた…」
「鈍感だな」

「ごめん…怪我させちゃって」

「これぐらい平気だって。いいから行くぞ」
立ち上がり、手を差し伸べる。
素直に手を握った襧豆子も立ち上がった。

「有一郎くんも一緒に行こ?怪我の手当てしてもらおう」

「………へいへい」
断れば、襧豆子は責任を感じてずっとこんな調子かもしれない。そう考えると同意するしかなかった。安心したように、襧豆子の表情が少しだけ和らいだ。
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