あの日のヒーロー

「おーい!アンパンマーン!!!」

「!!!!!!」
無一郎と玄弥、そして襧豆子の動きが止まる。

顔を赤くした襧豆子の瞳が大きく開かれた。すぐさま勢いよくこちらに近づいてくる。


「有一郎くん!その呼び方やめてって何度も言ってるのに!」

「さすがアンパンマン。呼んだらすぐ来てくれたな」

「もうっ!恥ずかしいからやめて!」

握りこぶしを作り訴えてくる襧豆子に「アンパンチが出る」と更に冷やかしたら、ますますヒートアップした。

「なんでアンパンマンなんですか?」

「初めて会ったとき、襧豆子がパンをくれたから」

そう話しだす二人を気にする余裕はなく、本当にアンパンマンのようにほっぺを赤くした襧豆子がおかしかった。あのときもらったパンにそっくりだと内心思った。

「あのときパンくれただろ?だからアンパンマン。ぴったりなあだ名じゃん」

「アンパンマンは好きだけど、なんか顔が丸いって意味にも聞こえる…」

「もしかしてメロンパンナのが良かったか?」

「パンからとりあえず離れて!」

俺と襧豆子の様子を、おもしろくなさそうに無一郎が見ていた。じっと見てくる同じ顔は、まるで拗ねた子どものようだ。

…妬くぐらいならさっさと行動しろバカ。

まだ騒ぐ襧豆子の肩を掴み、強引に横へ向かせた。俺の行動の意味にすぐ玄弥が気づいてくれる。玄弥は無一郎の背中を押して前に足を踏み出させると、すぐに離れていった。

「無一郎が話あるってよ」

そう言って俺もすぐに離れる。

顔を真っ赤にした無一郎と、きょとんとした顔の襧豆子を置いて、玄弥と走り去る。無一郎が何か叫んでいた気がするが、無視だ無視。

走りながら玄弥が声をかけてきた。

「と…無一郎さんって、あんな感じでしたっけ?いつも余裕というか、何でもそつなくこなすイメージだったんですけど」

「あいつ襧豆子が絡むとIQ下がんだよ」
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