あの日のヒーロー

***

───もう何回見たかわからない光景に、いい加減うんざりしてきた。

「いつまでそうしてるんだよ」
声をかけるも、二人には届いていないようだった。


「〜〜っ…!いい加減にしてくださいよ!いつまでそうしてるんですか!!!」

「まだ…!心の準備が…!!!」

「何回言ってるんですかその台詞!はやく行ってきたらいいでしょ…!ッ…つよッ…!!!」体格では玄弥のが勝ってるのに、腕を引かれている無一郎はびくとも動かない。

「…玄弥も一緒に来て…!」

「嫌ですよ!ちょ、時透さ…有一郎さん!何とかしてください!」

「………はぁ」
何度目かの大きなため息がでた。

廊下を行き交う生徒たちが、好奇心の目でじろじろと見てくる。両手で必死に無一郎を引っ張っていこうとする玄弥と、両手で必死に抵抗をしている無一郎。お互い足を踏ん張らせながら、綱引きでもしてるみたいに引っ張りあっている。
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