会えない時間

「あの…やっぱり、手でしようか?」
おそるおそる提案するも、すぐに却下される。

「そんなことしなくていいよ」

「じゃあ…下手かもしれないけど、口で…」
「こら。そんなことどこで覚えたの」

「友達から聞いたり、本で…」
こつりと音を立てて、おでこに無一郎くんのおでこがぶつかった。翠色の瞳が一気に近づく。

「しなくていい。こうしてるだけで十分幸せだから。襧豆子は幸せじゃないの?」

「…そんなことない」
「この話はおしまい。温かくして、もう寝るよ」
はやく切り上げたいという意思が見えるのは、彼も我慢しているからだろうか。それとも、私の自惚れだろうか。

無一郎くんへの恋心は、距離なんかで薄まることを知らない。

「無一郎くん…」
「………なに?」

「キスも…だめ?」
キスまでだめと言われたら、もしかして泣いてしまうんじゃないか。そう見えてしまっていたのかもしれない。

「…いいよ」
無一郎くんがそう言って、ゆっくりと体を起こした。そっと覆いかぶさってくると、優しい手つきで頬を包まれる。待ち望んでいたキスの雨に、自然と目を閉じた。
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