会えない時間

部屋のドアを開けると、座椅子に座ってくつろぐ無一郎くんと目が合った。もうひとつの空いている座椅子は、私のためにと彼がわざわざ用意してくれたもの。胸がチクリと痛んだ。

せっかくのお泊まりなのに…。

今日は体を重ねられない。そう言ったら彼はガッカリしないだろうかと不安になった。一緒に過ごせるだけでも幸せだけど、彼に抱かれることを日々待ち焦がれていた。そんな自分がいたのも事実だ。恥ずかしくて熱を帯びだす頬を押さえる。

「襧豆子。冷蔵庫に飲み物あるけど、何か飲む?」

「あ…あの、無一郎くん…!」
立ち上がろうとする彼へ声をかけた。申し訳ない気持ちが声に出ていたらしい。まるで身構えるように彼が言葉を待つ。


「今日……できない。ごめんね…生理になったみたいで……」無一郎くんと目線を合わせないままにそう告げた。ガッカリした声がすぐに飛びでてくると思いきや、彼からの返答は意外なものだった。

「………生理用品、持ってきてる?」

「へっ!?あ、うん…とりあえず一パックは…」
「わかった。ちょっと待っててくれる?」
そう言って今度こそ立ち上がると、元々備え付けられていたというウォークインクローゼットを開けた。ハンガーにかけられた上着を一着とると、すばやく袖に通し始める。どこかへ向かおうとしているのはすぐにわかった。

「無一郎くん、どこ行くの?」
「近くのドラッグストア。この時間ならまだ空いてるから。襧豆子は休んでて。僕が出たら鍵閉めてね。帰ってきたら自分で開けるから、襧豆子からは絶対開けないこと」そう流暢に話す無一郎くんは、鍵と財布を持って、さっさと家を出て行ってしまった。

呆気にとられたのもつかの間。
彼の指示通り、急いで鍵を閉めに入口へと走った。
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