プレゼント

「あの…時間的にケーキが売ってなくてね。とりあえずシュークリーム買ってみたんだけど…食べる?」

「うん、食べる」
彼女の持つビニール袋の中身がわかったところで、二階の部屋までの階段を上がっていく。トントンと階段を踏み上がる音が、静かな夏の夜へ吸い込まれていった。

「いつまでこっちにいられるの?」
「あ…いきなり来ちゃったし、無一郎くんバイトもあるでしょ?朝には帰っ…──」

「本当は?」

「………明後日の夕方まで」
「ん。決まり」
部屋の扉の脇に備え付けられたポーチライトには、虫が群がり集会を始めている。首元に吹き出る汗を、襧豆子がハンカチで拭った。少し外に出ただけで、自分の背中にもジワリとした汗が流れていることに気づく。期待に満ちた目で、彼女は扉が開かれるのを待っていた。

今日ここに来るまでの間。襧豆子がどんな想いで日々を過ごしていたのか想像を巡らせるだけで、高い波のような感情が押し寄せてくる。

「無一郎くんのお部屋初めて」
はやく。

「散らかってるから驚くかも」
はやく。

「無一郎くんがバイトの間、ご飯作って待っててもいい?」はやく。

「うん…ねぇ、襧豆子…」


誕生日プレゼントを、はやく───。


彼女の腕を引いて、すべりこむように中へと入る。外の熱から解放されて、クーラーの効いた部屋に火照った体が心地よい。けれどまたすぐに熱くなって、舌に指先に彼女の熱を乗せていく。

唇から漏れる甘い吐息が耳をくすぐり、交わる二人の体温に身を包ませた。
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