プレゼント

玄関を飛び出て階段を駆け下りる。すぐ隣の駐輪場を通り過ぎると、信号機の青色が点滅して、夜の景色を明るくしたり暗くしたりぼんやりと映していた。コンビニから漏れる白い蛍光灯の光が逆光となって、きちんと顔を見えなかったけど、僕があの子を間違えるはずはない。

自分の背丈よりもやや小さめのリュックを背負い、手首には白いビニール袋をかけている。先ほどまで僕と電話していたスマートフォンを大事そうに握りしめ、こちらにゆっくりと歩いてくる人物は、僕を見て驚きに声を上げた。驚くのはこちらだというのに、だ。

「…えっ!?無一郎くん、なんで…きゃあっ」
抱きしめた彼女の体は汗ばんでいて、それがよけいに愛おしかった。前髪を結んだピンクのリボンが、僕の頬を撫でる。

「な、なんでわかったの…?まだアパート着いてないのに…」
「部屋の窓から見えた…どうやって来たの?」

「夜行バスに乗って…あ、ちゃんと前に言われたとおり、そこからすぐタクシーに乗ったよ。近くまで降ろしてもらったから、そんなに夜道を一人でいたわけじゃなくて…んっ…ねぇ、聞いてる?」抱きしめる腕に力を込めると、襧豆子が体をよじらせる。

「………うん。聞いてるよ」
「…ふふっ、びっくりした?」
「うん。すっごくびっくりした」

僕の胸に顔を埋めていた彼女が、高い空を仰ぐように顔を上げる。夏の向日葵のような笑顔がそこにあった。



「───無一郎くん、誕生日おめでとう」

「…うん。ありがとう」
目の前にいればいいのに。そう願った彼女が夏の夜に現れ、今ここにいる。込み上げる感情を必死で抑えて、キスを落とそうとした唇は華奢な彼女の手によって塞がれる。不満だと訴える僕の瞳を、可愛らしく睨んできた。

「………外、だから」
リボンをほどいた瞬間、期待で胸が膨らんでいく誕生日プレゼント。いつだって中身は開けてからのお楽しみだった。

「………中、入ろう」
そうだ。誕生日ケーキだって食べなきゃいけない。襧豆子と二人で食べるケーキは、とびきり甘いものに違いない。ふわふわと浮き足立つ二人の足が、熱のこもったアスファルトを蹴っていく。
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