プレゼント
「ごめん…疑ってるとかじゃなくて、やっぱりその…」
「ううん。私も無一郎くんのこと、正直心配だし…」
「心配?」
自炊のことを言ってるのだろうか。恥ずかしそうに言いよどむ空気が、電波と一緒にこちらに流れてきていた。
「無一郎くん、ずっと女の子からの告白すごかったもん…」もじもじしながら僕を見つめる瞳が、声を通して伝わる。
「私だって心配してるんだよ。そっちでも可愛い女の子にいっぱい告白されてるんじゃないかって…誕生日プレゼントだって、よくもらってたじゃない。今年は会えないから、せめて一番におめでとうって言おうと思って…」
「…だから、今日はこんな時間に電話くれたの?」
コクンと頷く襧豆子は、ますます顔を隠すように下を向いた。こうしようと約束をしてるわけではないが、電話をする際には一度メッセージを送りあい、確認してから電話をかけるようにしている。そういえば今日はメッセージが届く前に、彼女から電話がかかってきた。日々の疲れを気遣っている襧豆子が、夜の深い時間に電話をかけてくるのもめずらしい。
それに…。
「夜の電話はさびしくなるって、この間言ってたのに」
ふっと緩やかな笑みがこぼれた。ベッドに座る僕の目の前には殺風景な壁があるだけで、ようやく慣れたと思った部屋がまたよそよそしくなった。目の前にいればいいのに。そう心から想う彼女が、真っ赤な顔を上げて僕を見つめる。どこか強がるような、切なく思わせる視線を込めて。
「…誕生日は別。プレゼントだって、本当は直接渡したいのに」
「誕生日プレゼント?何くれるの?」
「…無一郎くん、欲しいもの教えてくれないから。すっごく迷ったんだよ」何もいらないと言えば頬が膨れるし、本当に欲しいものはもう手にしている。後は手放さないだけだと彼女に伝えても、話をはぐらかすなと責められる。
この時間が充分すぎるほどの誕生日プレゼントだと、冬の彼女の誕生日には理解してもらえるだろうか。そう思ってもらえるほどの襧豆子の彼氏だと、胸を張って言えるだろうか。
おもむろにベッドから下りて立ち上がる。時計の針が、十一時五十八分を指していた。もうすぐで日付が変わると、まるで年越しの瞬間を迎えるように彼女が騒ぎ始めた。
「大晦日じゃないんだから」
そう通話口に声を入れても、彼女からの返事がない。
二人の声を届けあってくれる糸が、わずかに乱れた気がした。ザザッと紙を破くような音と、カサカサと何かが揺れるような音に胸騒ぎがする。電波の乱れを表しているのか、耳を澄ましてみるもよくわからない。
「襧豆子?」
まだ返事がない。窓に近づき取っ手に手をかけると、外の湿った熱気がむわっと部屋に入ってくる。せっかく冷えた部屋の温度が上がってしまったと、落ち込むようにクーラーの風量が勢いを落とした。手に持ったスマホ画面を見ても、こちらに問題があるようには見えない。電波が悪いとするなら、襧豆子の方だろうか。
外には馴染みつつある光景があった。
車通りの少ない道路に、煌々と白い光を放つコンビニ。こちらの道に繋ぐ横断歩道の信号機が、赤から青に変わる。
その瞬間、僕は一目散に部屋を飛び出していた。
「ううん。私も無一郎くんのこと、正直心配だし…」
「心配?」
自炊のことを言ってるのだろうか。恥ずかしそうに言いよどむ空気が、電波と一緒にこちらに流れてきていた。
「無一郎くん、ずっと女の子からの告白すごかったもん…」もじもじしながら僕を見つめる瞳が、声を通して伝わる。
「私だって心配してるんだよ。そっちでも可愛い女の子にいっぱい告白されてるんじゃないかって…誕生日プレゼントだって、よくもらってたじゃない。今年は会えないから、せめて一番におめでとうって言おうと思って…」
「…だから、今日はこんな時間に電話くれたの?」
コクンと頷く襧豆子は、ますます顔を隠すように下を向いた。こうしようと約束をしてるわけではないが、電話をする際には一度メッセージを送りあい、確認してから電話をかけるようにしている。そういえば今日はメッセージが届く前に、彼女から電話がかかってきた。日々の疲れを気遣っている襧豆子が、夜の深い時間に電話をかけてくるのもめずらしい。
それに…。
「夜の電話はさびしくなるって、この間言ってたのに」
ふっと緩やかな笑みがこぼれた。ベッドに座る僕の目の前には殺風景な壁があるだけで、ようやく慣れたと思った部屋がまたよそよそしくなった。目の前にいればいいのに。そう心から想う彼女が、真っ赤な顔を上げて僕を見つめる。どこか強がるような、切なく思わせる視線を込めて。
「…誕生日は別。プレゼントだって、本当は直接渡したいのに」
「誕生日プレゼント?何くれるの?」
「…無一郎くん、欲しいもの教えてくれないから。すっごく迷ったんだよ」何もいらないと言えば頬が膨れるし、本当に欲しいものはもう手にしている。後は手放さないだけだと彼女に伝えても、話をはぐらかすなと責められる。
この時間が充分すぎるほどの誕生日プレゼントだと、冬の彼女の誕生日には理解してもらえるだろうか。そう思ってもらえるほどの襧豆子の彼氏だと、胸を張って言えるだろうか。
おもむろにベッドから下りて立ち上がる。時計の針が、十一時五十八分を指していた。もうすぐで日付が変わると、まるで年越しの瞬間を迎えるように彼女が騒ぎ始めた。
「大晦日じゃないんだから」
そう通話口に声を入れても、彼女からの返事がない。
二人の声を届けあってくれる糸が、わずかに乱れた気がした。ザザッと紙を破くような音と、カサカサと何かが揺れるような音に胸騒ぎがする。電波の乱れを表しているのか、耳を澄ましてみるもよくわからない。
「襧豆子?」
まだ返事がない。窓に近づき取っ手に手をかけると、外の湿った熱気がむわっと部屋に入ってくる。せっかく冷えた部屋の温度が上がってしまったと、落ち込むようにクーラーの風量が勢いを落とした。手に持ったスマホ画面を見ても、こちらに問題があるようには見えない。電波が悪いとするなら、襧豆子の方だろうか。
外には馴染みつつある光景があった。
車通りの少ない道路に、煌々と白い光を放つコンビニ。こちらの道に繋ぐ横断歩道の信号機が、赤から青に変わる。
その瞬間、僕は一目散に部屋を飛び出していた。