プレゼント

「疲れてるとき、私もお惣菜やお弁当に頼ることあるよ」
そう前置きしながら襧豆子は話を続けた。彼女もまた同じく、一人暮らしをしている大学一年だ。彼女の通っている大学は県内にあるけれど、実家であるパン屋から通うにはいささか不便な距離にあるという。同じ時期に始めた引っ越しだったから、住所と部屋番号は教え合ったものの、お互いの住むアパートにまだ行ったことはなかった。

「下の子たちのご飯を作るのに慣れちゃって、一人暮らしなのについ作りすぎちゃうことあるの。習慣ってなかなか抜けないよね」

「あははっ、襧豆子らしいね。そういうときどうするの?」
以前写真で見せてもらった、襧豆子の住むアパートのキッチンが目に浮かぶ。まだ使い始めて間もない新鮮さを残し、きれいに整頓された調味料や調理器具が写っていた。そこで料理をする襧豆子を早く見たいと、いつか訪れるそんな日が待ち遠しい。

「冷凍できるものは冷凍して…あ、この間はね、大学の友だち呼んで一緒にご飯食べたんだよ」

風量を上げても設定温度を下げてもいないのに、窓際の壁に取り付けられたクーラーの作動音がゴォッと音を立てた。

「………へ、へぇ…そうなんだ…」
「うん!つい食べ過ぎちゃって、遅くまで語ったりなんかして…それで」

「あの…それってさ…!」
ベッドから勢いよく体を起こし、目の前にはいない襧豆子に正座してもらった。会話を遮断したことに怒る気配はなく、ただ不思議そうに襧豆子は首を傾げた。もちろん僕の頭の中にいる彼女の姿であって、電話の向こうの彼女がどんな体勢でいるのかは知らない。

「それって…女の子だけ、だよね…?」
「…えっ」
「男とか…混じったりしてない?」

小さい男だと思われる。そんなプライドを持つほど余裕はない。
あの頃のように毎日会えるわけじゃないし、会える時間だって限られている。彼女の大学生活での新しい出会いが、同性だけではないということを本当は恐れていた。

手に握ったスマートフォンが熱い。彼女と繋いでくれるこの機器だけ、夏の炎天下にいるようだった。

「もちろん…!女の子だけ」
うつむき気味になったせいで、耳にかけていた襧豆子の髪がするりと落ちた。赤く染まる頬を隠すように垂れ落ちた髪を、また耳にかけ直す。そんな仕草をした彼女が見えた気がした。
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