プレゼント

幼い頃、家族で囲んだ誕生日ケーキが好きだった。父さんがケーキに刺さった蠟燭に火をつけると、母さんが電気を消しに行く。真っ暗になった部屋の中。オレンジ色を宿した小さな火だけが唯一の灯となって、静かに揺らめいていた。両親の優しい声で奏でられる誕生日ソングが終わると、兄さんとタイミングを合わせて火を吹き消した。立ち上る煙が闇の中に消え去る寸前、ぱっと明るくなった部屋に目を細めては、大きな拍手が起こる。

白い生クリームの上に、果物が贅沢にごろごろと乗った誕生日ケーキ。お誕生日おめでとうと書かれたチョコプレートには、僕と兄さんの名前も一緒に書かれてあった。

「有一郎、無一郎、誕生日おめでとう」

カメラマン顔負けになりそうなほど、このときばかりの父さんはカメラを離そうとしない。耳にこびりつきそうなシャッター音に飽きていると、痺れを切らした兄さんがもうケーキを食べてもいいかとため息を吐いた。

母さんが丁寧に均等に切ってくれても、なぜだか兄のケーキの方が果物の数が多いように見えて仕方がなかった。しかしそれは兄も同じだったようで、お互いのケーキをにらみ合う僕たちを見て今度は母さんがため息を吐いた。

そんな幼い頃の醜い争いは、彼女にも心ばかり経験があるらしい。

受話口から漏れる笑い声が、鼓膜をこそばゆくさせた。
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