夏の誘惑
テレビで観ていた海水浴場の中継は、まるで芋洗い状態だった。砂浜はカラフルなパラソルで埋め尽くされ、海で泳ぐ若者や家族連れの映像が映し出されていた。そんな風景の裏で、地元民からの怒りの声も続いて取りあげられた。砂浜でゴミを置き去りにして帰る利用客が増えていることに、地元民や海の家の従業員は頭を悩ませているという。きっと彼女もそのニュースを観ていたに違いない。
夏休みも終盤。パラソルの下から青空を見上げる。絵具で塗りつぶしたような爽やかな青色だった。太陽の光できらめく海では、泳ぎを楽しむ人々の笑い声が波に乗って運ばれてくる。
みんなが夏を楽しんでいる中、可愛い水着を着た清掃作業員は、男たちの視線をひっそりと集めていた。真菰の提案で、せっかくみんなで海に遊びに来たというのに。彼女は一体何をしているんだろうか。誰かの落とした、もしくはわざと置いていった空き缶を拾って、律儀に海の家まで持って行く。その背中をじっと追いかけた。もうこれで三回目だ。あれではいつか本当に清掃員と間違われて、直接ゴミを手渡されそうな気がしてきた。何よりもあの格好で屈むのはやめてほしい。上着を羽織っているとはいえ、前からも後ろからも刺激が強すぎる。すぐに海の家から襧豆子は戻ってきた。
「………襧豆子はここに掃除しに来たの?」
「えっ!?ち、ちがうよ…!」
「じゃあなんで海に入らないの?」
「…荷物みてなきゃいけないし」
「貴重品はロッカーに預けてるじゃん」
「わ、私はいいから、無一郎くん行ってきて」
「襧豆子ひとり置いていけるわけないでしょ」
彼女は黙りこみ、そのまま僕の隣へと腰を下ろした。泳ぎたいのを我慢してる風にも見えなかった。海の家で借りてきた浮き輪が、出番を待つようにレジャーシートに置かれてある。
「…もしかして、海に入るの怖い?」
なるべく彼女のプライドを傷つけないよう、なんてことない風に訊いてみた。先ほどとは反対に、今度は襧豆子が目をそらしている。恥ずかしそうに頷く仕草が可愛くて、胸が小さく音を立てた。
「そういえば襧豆子って、体育の選択授業にプール選んでなかったよね」
「うん。子どもの頃から、あんまり泳ぐの得意じゃなくて…」
「そうなんだ。水に浸かるのもだめ?」
「ううん、最近になってやっと顔つけれるように………って笑わないでよ!」
「…ふふっ…!だって…ごめん…!」
笑ってるのがバレないようにしたものの、肩が震えてることに気づいたらしい。襧豆子が顔を上げて睨んできた。彼女の行動はあまりにも矛盾していたが、それもまた彼女らしく思える。
夏休みも終盤。パラソルの下から青空を見上げる。絵具で塗りつぶしたような爽やかな青色だった。太陽の光できらめく海では、泳ぎを楽しむ人々の笑い声が波に乗って運ばれてくる。
みんなが夏を楽しんでいる中、可愛い水着を着た清掃作業員は、男たちの視線をひっそりと集めていた。真菰の提案で、せっかくみんなで海に遊びに来たというのに。彼女は一体何をしているんだろうか。誰かの落とした、もしくはわざと置いていった空き缶を拾って、律儀に海の家まで持って行く。その背中をじっと追いかけた。もうこれで三回目だ。あれではいつか本当に清掃員と間違われて、直接ゴミを手渡されそうな気がしてきた。何よりもあの格好で屈むのはやめてほしい。上着を羽織っているとはいえ、前からも後ろからも刺激が強すぎる。すぐに海の家から襧豆子は戻ってきた。
「………襧豆子はここに掃除しに来たの?」
「えっ!?ち、ちがうよ…!」
「じゃあなんで海に入らないの?」
「…荷物みてなきゃいけないし」
「貴重品はロッカーに預けてるじゃん」
「わ、私はいいから、無一郎くん行ってきて」
「襧豆子ひとり置いていけるわけないでしょ」
彼女は黙りこみ、そのまま僕の隣へと腰を下ろした。泳ぎたいのを我慢してる風にも見えなかった。海の家で借りてきた浮き輪が、出番を待つようにレジャーシートに置かれてある。
「…もしかして、海に入るの怖い?」
なるべく彼女のプライドを傷つけないよう、なんてことない風に訊いてみた。先ほどとは反対に、今度は襧豆子が目をそらしている。恥ずかしそうに頷く仕草が可愛くて、胸が小さく音を立てた。
「そういえば襧豆子って、体育の選択授業にプール選んでなかったよね」
「うん。子どもの頃から、あんまり泳ぐの得意じゃなくて…」
「そうなんだ。水に浸かるのもだめ?」
「ううん、最近になってやっと顔つけれるように………って笑わないでよ!」
「…ふふっ…!だって…ごめん…!」
笑ってるのがバレないようにしたものの、肩が震えてることに気づいたらしい。襧豆子が顔を上げて睨んできた。彼女の行動はあまりにも矛盾していたが、それもまた彼女らしく思える。