欲しいもの

欲しい物リストの一番最後。僕の一番欲しいもの。固い砂の上に文字が掘られていく。

襧豆子は何も言わない。いや、きっとまだ意味を理解していない。



"ねずこ"

愛しい人の名前で、地面におうとつが出来上がる。まるでスポットライトのように、その部分にだけ大きな日差しが注がれていた。

「………これが"僕の"欲しいもの」

兄さんとお揃いじゃだめだよ。

何とかそれだけを口から絞りだすと、地面から、襧豆子から視線を逸らした。欲しいものなんて訊いてくる彼女に、正直に答えただけだ。まだ伝えるつもりなんてなかったんだ。

先走ったことを悔やんで、不自然な沈黙が痛い。生ぬるい風に、揺れた髪が頬に張りつく。枝を持つ手を離そうとすると、僕より小さな手がそれを止めるように包んできた。

驚いて視線を戻すと、耳まで赤くなった彼女の横顔があった。優先して枝を動かしているのは、僕か、それとも───。


「…じゃあ、これにするね」

一番欲しいものに、大きな丸をつけた。
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