欲しいもの

「これからもっと暑くなるから、タオル」
砂の表面を削るように襧豆子が書くと、ジャリジャリと乾いた音が鳴った。

「あと、Tシャツ」
「え、兄さんとお揃いで?」

「だめ?」
「………それはちょっと勘弁」
楽しそうな響きを含ませて、ふふっと彼女が笑う。薄茶色のキャンバスの上には、形がそれぞれ違う太陽の雫が、いたるところに零れていた。頭上を見上げると、葉の隙間からのぞく日差しの眩しさに目を細める。

「あと何かあるかな。無難に文房具とか…アクセサリーとかは二人ともつけない?」僕と兄さんの誕生日プレゼントに、彼女は一生懸命頭をひねらせていた。襧豆子の長い黒髪が、光を受けて艶めいている。

タオル、Tシャツ、ぶんぼうぐ、アクセサリー。上から順に書いてくれた物に、本当に欲しい物は入っていなかった。

「…欲しい物ってなんでもいいの?」
「あまり高い物じゃなければ」

貸してと意味を込めて、手を広げた。渡された枝でキャンバスに文字を書く。なになに?と興味深そうな顔で、襧豆子がのぞきこんできた。
6/7ページ
スキ