欲しいもの

「そうなんだ…よかった。てっきり気を使わせちゃったのかと思って」普段は兄や錆兎と昼食をとっている僕を知っているから、彼女はそれが気がかりだったらしい。ようやく安堵の笑みを浮かべる。

「ちょうど僕も一人だったからね」
今日最後の嘘をついてから、襧豆子の顔をのぞき込んだ。

「それに、襧豆子があまりにも寂しそうな顔してたから」

「!?そ、そんな顔してないもん!」
「いーや、してた」
「してない!」

顔が茹でダコみたいに赤くなって、反発するように襧豆子が叫ぶ。笑みを広げる僕を、膨れ顔で睨んできた。二人の座るベンチは、ちょうど木の影になる場所へ設置されている。ひしめき合う葉が簡単な屋根の役目になっていた。葉の隙間をかいくぐり、太陽が光の線になって差し込んできていた。

なじるような風が髪を撫でてきて、首元に張りつく髪を指ですくって払いのける。

弁当をつついているうちに、いつの間にか機嫌の直った襧豆子が話し始めた。

「そういえば、もうあっという間に夏休みがくるねぇ」

「そうだね。襧豆子は夏休みどうするの?」
「家の手伝いと、あとは…特に決めてないかな。無一郎くんは?」

「僕も似たようなものかな。将棋部と…あと、剣道部の試合に助っ人で呼ばれてる日もあったな、たしか。それ以外は特に予定もないし」

「え、他にも大事な予定あるでしょ?」
口に放りそこねた卵焼きが、襧豆子の箸から落ちていった。
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