欲しいもの

学園には中庭が三種類あった。グラウンド側にある初等部をのぞき、中等部の敷地内に一つ。高等部の敷地内に一つ。そして、中等部と高等部の境目にある中庭が、三つの中で一番面積が広い。広いぶん植樹された木の数も多く、まるでどこかの有名な庭師が携わったのかと思うほど、きれいに手入れされたものばかりだ。聞けば、過去にこの学園を卒業した生徒たちの卒業記念植樹されたものが大半だという。

中等部の中庭は先客で埋めつくされていたため、高等部との境目にある中庭へとやってきた。

外気の熱によって、ぬくもりができたベンチへ腰かける。梅雨明けの最初の一日目である今日は、まだ空気が生ぬるく湿っていた。雨水をたくさん吸収した若葉が、近づいてくる夏の気配に深呼吸をしている。その匂いを肺に送りこむと、緊張が少しだけ和らいだ気がした。

「今日、錆兎くんは…?」
隣に腰かける襧豆子が、どこか申し訳なさそうに訊いてきた。

「今日は鱗滝さんのところに行くんだって」
授業が終わってすぐ、購買に走った錆兎へ急いでラインを送ったのは内緒だ。

「有一郎くんは…?」
「今日の昼休み、付きっきりで数学の勉強教えてくれって竹内に頼まれたらしいよ」
襧豆子を誘ってすぐ、別クラスの兄へ急いでラインを送ったのは内緒だ。その二人に送ったメッセージが、同じ文面だということもさらに内緒だ。あの二人なら、たとえメッセージを見ずとも状況ですぐに察してくれると信頼できる。

休んでいる真菰には申し訳ないが、襧豆子と二人きりになれるチャンスを掴まないわけにはいかなかった。
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