欲しいもの

手元の教材をかき集め、先生が教室から足早に去っていく。それを欠伸をしながら見ていた。四時間目の授業の後、先生だってはやく休憩に入りたいに違いない。授業終了のチャイムは、昼休み開始のチャイムでもある。クラス皆が一斉に動き出して、各々で昼休憩をとり始めた。

今日、彼女は昼休みをどう過ごすのだろう。
国語の教科書を机の下にしまうと、ちらりと彼女のいる席へ目を向けた。

とりあえず弁当の包みを出してみるも、それを広げるわけでもなく、移動するわけでもなく、いまだ自分の席に座ったままだった。いつも共に過ごすはずの真菰が、今日は学園を欠席しているのだ。昼休みの自分の居場所をどうしようかと、不安そうに視線をさ迷わせる姿に、胸をくすぐられたのは自分だけじゃないはず。

視界の隅で、一人の男子生徒が動いた。
もう反対側では、群がる複数人の女子生徒の中から一人。軽い足取りな女子生徒とは反対に、男子生徒の足取りは緊張を引きずったように重い。

迷っている時間はない───。


「襧豆子!お昼、一緒に食べよう!」

彼女のさ迷う視線が僕で止まった。
名を覚えていない男子生徒と女子生徒の足も止まった。
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