本命チョコ

「これ、もらっていい?」
襧豆子の手元から、ラッピング袋をそっと受けとる。リボンをほどいて中をのぞくと、花形や星型の形をしたクッキーが入っていた。形が崩れて、なんて襧豆子は言うけれど、正直違いはわからなかった。ひしめき合うクッキーの海の中。花形でも星型でもない形のクッキーが一つ、ここだとアピールするようにぽつんと乗っかっていた。

つまみあげ口に放り込むと、さくさくと軽やかな音を立てて、口腔が甘い香りで満たされていく。

「美味しい。ありがとう、襧豆子」
「…………本当は、もっとちゃんとしたのあげたかったの…ほ、本命だから…」


まるで冬の夕日のように、真っ赤に染まる彼女の頬へふれる。先ほどから可愛いことしか言わない唇を塞ぐと、ふれた唇から、頬に添えた指先から、彼女の体温が伝わってくる。

好きな子がくれるものなんて、全部が特別に決まってるのに。


角が少しだけ欠けたハート。可愛い彼女がくれた、世界で一番可愛いハート。

薄暗くて底冷えする、冬の教室。
なのに体はこんなにも熱くて、頭の芯からとろけていきそうだ。

君との初めてのキスは、どんな菓子よりも、特別に甘く思えたから───。
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