本命チョコ

───ピンと立つメレンゲを見て喜んでいた。甘いチョコレートの匂いに笑顔をこぼしていた。本命相手の名前は教えてくれなかったけど、好きになったきっかけを聞くと、はにかみながら教えてくれた。

『風邪で休んで課題が遅れてたから、放課後に残ってたの。そしたら、手伝ってくれたんだ!すごく嬉しかったの』

絵の具や木の匂いが漂う図工室で二人きり。担当の先生が席を外している間、ずっと一緒についていてくれたという男の子。人気の少なくなった学園内で、グラウンドから聞こえる運動部の掛け声が、やけに耳に残ったという。


緊張してうまく喋れたかわからない。
そのときの光景を思い出しながら、花子はそう言っていた。


「………お母さん、お兄ちゃん。お店に戻って。そろそろお客さん来ちゃうよ」ここは心配しないでと意味を込めて言葉にした。

「花子、顔洗っておいで。準備しなきゃ!」

そう言って勢いよく冷蔵庫を開けると、やっと花子が顔を上げる。赤く染まった鼻と充血した目。冷やせば数分で治るかなと、頭の片隅でそんなことを考えた。

赤と白の二色でデザインされた、縦縞のガトーショコラの型。シュガーパウダーと一緒に冷蔵庫から取りだした。
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