本命チョコ
自宅玄関の扉を開けると、お店から流れてきたパンの匂いが鼻をくすぐった。甘くて優しい竈門家の香りとは裏腹に、泣き声とも叫び声ともとれる大声が響いてきた。
「ばかっ!みんなのばか!!!信じられない!」
ただ事でない雰囲気を察し、急いで声のする部屋へ向かう。台所には家族が集合していて、顔を真っ赤にして体を震わせる花子と、気まずそうに俯いた兄と弟たち。それを困り顔でなだめようとする母がいた。下のきょうだいの軽い口喧嘩は日常茶飯事だが、この息が詰まるような空気はいつもの喧嘩と違う。
何より、普段なだめる立場の兄までもが、一緒になって肩を落としているのだ。
「…ちょ…どうしたの?何があったの?」
「襧豆子…」
少しだけホッとした様子で、母と兄が事情を説明してくれる。お兄ちゃんが学園から帰ってきてすぐ、カナヲちゃんがバレンタインのチョコを持って、我が家を訪ねてきてくれたらしい。
お兄ちゃんの分だけじゃなく、きょうだいたちの分まで用意してくれたチョコレート。
それを食べてもいいと兄は弟たちに告げたものの、冷蔵庫に閉まったカナヲちゃんのチョコタルトに竹雄たちは気づかず、あろうことか…。
「ばかっ!みんなのばか!!!信じられない!」
ただ事でない雰囲気を察し、急いで声のする部屋へ向かう。台所には家族が集合していて、顔を真っ赤にして体を震わせる花子と、気まずそうに俯いた兄と弟たち。それを困り顔でなだめようとする母がいた。下のきょうだいの軽い口喧嘩は日常茶飯事だが、この息が詰まるような空気はいつもの喧嘩と違う。
何より、普段なだめる立場の兄までもが、一緒になって肩を落としているのだ。
「…ちょ…どうしたの?何があったの?」
「襧豆子…」
少しだけホッとした様子で、母と兄が事情を説明してくれる。お兄ちゃんが学園から帰ってきてすぐ、カナヲちゃんがバレンタインのチョコを持って、我が家を訪ねてきてくれたらしい。
お兄ちゃんの分だけじゃなく、きょうだいたちの分まで用意してくれたチョコレート。
それを食べてもいいと兄は弟たちに告げたものの、冷蔵庫に閉まったカナヲちゃんのチョコタルトに竹雄たちは気づかず、あろうことか…。