それを言うまでは

***

「これは自分で持ちたい」
代わりに荷物を持つと申しでた僕に、襧豆子は笑ってそう言った。彼女が欲しがっていたぬいぐるみ。僕があげたぬいぐるみ。それをなんとも大事そうに抱き抱えて。

心がこそばゆく疼いた。

手を振りほどくこともなく、大人しく彼女はついてきていた。僕にふれている手も、ぬいぐるみを抱き抱える手も、こんなに小さかっただろうか。


淡い桃色の浴衣が夜闇に浮かんで、儚く溶けていきそうだと思えた。揺れる花飾りは、かすかな星空の光で淡く色を灯している。


───風が火薬の匂いを運んできていた。

花火の音は聞こえない。隣町の花火なんて、もう終わっている。河川敷で花火を見終えた人たちだろう。すれ違う人の波がそれを示していた。

そのことにはふれなかった。

どうか襧豆子が気づきませんように。
繋いだ手を握りしめ、静かに祈る。

もう少し。もう少しだけ。
そっと握り返してくれるこの手を、離したくない。




───まだ帰りたくない。


───まだ終わらないで。



───まだ、



君に可愛いって言えてないのに。
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