本命チョコ

「おはよ、襧豆子」
「……おはよう」

「襧豆子はチョコレート没収されなかったの?」
「うん。今日検査があるって事前に教えてもらってたから、持ってこなかったの」

「………じゃあ、用意はしてたんだ?」
のぞきこんでくる彼の顔がグッと近くなる。恥ずかしさから視線を逸らした。

「う、うん」

「…ふーん………友達に?」
「えっと………友達だったり……い、色々…」

「色々?友達以外にもあるってこと?」

「…うん…」
「………………………」
まるで尋問でもするような無一郎くんの問いかけに言葉が詰まる。その矢先、彼の方から会話が途切れてしまい、自分をじっと見つめる淡い青緑色に気づいた。

「………えっ…?」
「………友達以外のチョコって何?誰に渡すの?」
上目遣いでそう聞かれてしまうと、太陽の熱をじりじりと浴びてるように、体が熱くなってくる。期待と不安の色が混ざりあった瞳。心を見透かされそうな眼差しは、私の体を硬直させる。けれど嫌な気分にはならなかった。

「………無一郎くん。今日って…」
「!なに?」

「放課後とか…その、ちょっと時間ある…?」
「!!!ある!!暇!」

ぱぁっと光が差した瞳が見開かれ、彼が勢いよく返事をする。とても口には出せないけど、まるで飼い主を見つけて尻尾を振るワンちゃんのようだ。

どうしてそんなに嬉しそうなんだろう。
冷静でいようとつとめても、高鳴る胸の鼓動が抑えれない。

期待しちゃだめ。そう思うのに。

───期待してもいい?
無邪気な笑顔と共に、そう語りかけてくる瞳。
友達以外のチョコレート。それを渡したい相手は、今目の前で自分を静やかに見つめていた。
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