本命チョコ

「どこの誰だか知らないけど、俺は感謝してるぞ」
「同意」

背後からすぐに錆兎くん、続けて無一郎くんの声がして心臓が跳ねる。わかりやすく変化した私の表情に気づいたのは、真菰ちゃんだけだった。にやりと口元に弧を描き、付き合いの長い錆兎くんを茶化し出す。

「え〜そんなこと言って、本当はショックなんじゃないの〜?錆兎も毎年、結構チョコもらってるよね」

「興味ないな。特別甘いものが好きなわけでもないし。持ち帰るのも食べきるのも、あれ大変なんだぞ」同意を求めるように、錆兎くんが無一郎くんへ視線を投げた。いつもならすでに、大量のチョコレートが入った紙袋を一つは抱えてるはずなのに。通学カバンしか持っていない無一郎くんを見て、密かに安堵する。

「毎年のおこぼれ、楽しみにしてたのになぁ」
「やっぱりそれが狙いか!」

「でもさ!放課後には没収されたチョコも返ってくるだろうし、今日が駄目でも明日くれるかもしれないし。その時は…」

「お前なぁ…!」
ちょうだいのポーズで両手を差しだす真菰ちゃんを、錆兎くんが呆れたように制した。仲良くじゃれ合う二人を羨ましく見ていると、いつの間にか無一郎くんがすぐ隣に立っていた。
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