本命チョコ
毎年のバレンタイン。無一郎くんと有一郎くんの周りには、学年問わず女生徒の人垣ができる。普段二人と接する機会のない生徒も、イベントに乗っかり声をかけやすくなる日でもあるのだ。チョコを渡すだけの子もいれば、そのまま告白する子だって少なくない。
女の子に呼び出され、教室を出ていく彼の後ろ姿が脳裏をよぎる。引き止めたくなる気持ちを必死で抑えるあの瞬間。息がしづらくなって、いつも胸が苦しくなった。勢いよく紅茶を流しこみカップを置く。
「あんまり怖がらせないでよね…!」
「あははっ、ごめんごめん」
「そういう花子はどうなの?渡せる自信あるの?」
「自信…というか、たぶん喜んでくれるとは思う」
「………結局、誰なのかは教えてくれないのね」
「………無事に渡せたら話すよ」
カップの中をのぞきこむ。揺れるフルーツティーの水面に、複雑そうな自分の顔が写しだされた。花子の意中の相手はわからないけど、無一郎くんは果たして喜んでくれるのだろうか。美味しいチョコレートなんて、彼にとっては十分事足りているのだ。私からのチョコなんて、あってもなくても別段困ることもない。
ネガティブな感情に呑まれる前にと、紛らわすように一気に残りの紅茶を飲み干した。紅茶のおかわりを注ごうと席を立つと、スマホから呼出音が鳴る。画面には"真菰ちゃん"と友人の名前が表示されていた。
女の子に呼び出され、教室を出ていく彼の後ろ姿が脳裏をよぎる。引き止めたくなる気持ちを必死で抑えるあの瞬間。息がしづらくなって、いつも胸が苦しくなった。勢いよく紅茶を流しこみカップを置く。
「あんまり怖がらせないでよね…!」
「あははっ、ごめんごめん」
「そういう花子はどうなの?渡せる自信あるの?」
「自信…というか、たぶん喜んでくれるとは思う」
「………結局、誰なのかは教えてくれないのね」
「………無事に渡せたら話すよ」
カップの中をのぞきこむ。揺れるフルーツティーの水面に、複雑そうな自分の顔が写しだされた。花子の意中の相手はわからないけど、無一郎くんは果たして喜んでくれるのだろうか。美味しいチョコレートなんて、彼にとっては十分事足りているのだ。私からのチョコなんて、あってもなくても別段困ることもない。
ネガティブな感情に呑まれる前にと、紛らわすように一気に残りの紅茶を飲み干した。紅茶のおかわりを注ごうと席を立つと、スマホから呼出音が鳴る。画面には"真菰ちゃん"と友人の名前が表示されていた。