本命チョコ

毎年作るバレンタインチョコは、いわゆる友チョコというもので、誰にどれを渡しても困ることのない、中身も包装もすべて同じものだった。けれど今年は花子の勇気に感化され、彼だけのチョコレートを自分も作ってみたくなったのだ。

お菓子作りを終えた今、後は明日のバレンタインに無一郎くんに渡すだけ。けれど、この渡すだけという行為が、チョコを作るよりもはるかに難易度が高いのだ。

「むいくんはモテるから、お姉ちゃんも大変だよね。前にさ、食べきれないからってバレンタインチョコのおすそ分け持ってきてくれたことあるでしょ?ゆうくんと一緒に」

「あったわね、そんなことも…」

「有名なお店のチョコだったり、売り物みたいな手作りチョコもいっぱいあったじゃない?茂たちはみんな喜んでたけど…お姉ちゃんのチョコも、おすそ分けの中に入らなきゃいいね」

勢いよく放たれた矢は、見事に胸の痛いところを突いてきた。
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