本命チョコ
台所の中を甘い匂いが駆け巡る。外にもこの匂いをおすそ分けするために、換気扇がせわしなく回っていた。
鼻がとろけそうになるようなチョコレートの匂いを思いきり吸い込むと、まるでチョコレートと一体化していくようだった。オーブンの前から離れようとしない妹へ視線を向ける。危ないからここまでと指摘された距離を保ち、正座したまま椅子に座っている。笠木に両腕と顎を乗せ、中をのぞきこんでいるその姿は、自分の幼い頃と重なった。
「ほわぁ〜…」
感嘆の声を漏らし、瞳をきらきら輝かせている。
最初は綺麗に膨らむかどうか心配で見ていたはずが、段々とその膨らんでいく工程がおもしろくて見入ってしまうのだ。初めて母とお菓子作りをした日を思い出す。
…わかるなぁ、その気持ち。
思わず口元が緩むと、花子が振り返った。
「お姉ちゃん、時間半分きたよ」
「ん、じゃあ一旦止めて移動させよっか」甘い匂いが凝縮されたオーブンの中には、茶色の生地が流し込まれたハート型が二つ。やけどに気をつけながら型をつまみ、隣同士に並んでいる二つを左右交換させる。こうすることで熱の通りのムラをなくすのだ。そう説明すると、花子が感心しながら頷いた。
本命チョコを作りたいと花子から相談を受けたのは、二月に入ってすぐのことだった。いつもは元気よくノックした後すぐ部屋に入ってくるのに、あの日は母か兄かと勘違いするような、静かなノックだった。
鼻がとろけそうになるようなチョコレートの匂いを思いきり吸い込むと、まるでチョコレートと一体化していくようだった。オーブンの前から離れようとしない妹へ視線を向ける。危ないからここまでと指摘された距離を保ち、正座したまま椅子に座っている。笠木に両腕と顎を乗せ、中をのぞきこんでいるその姿は、自分の幼い頃と重なった。
「ほわぁ〜…」
感嘆の声を漏らし、瞳をきらきら輝かせている。
最初は綺麗に膨らむかどうか心配で見ていたはずが、段々とその膨らんでいく工程がおもしろくて見入ってしまうのだ。初めて母とお菓子作りをした日を思い出す。
…わかるなぁ、その気持ち。
思わず口元が緩むと、花子が振り返った。
「お姉ちゃん、時間半分きたよ」
「ん、じゃあ一旦止めて移動させよっか」甘い匂いが凝縮されたオーブンの中には、茶色の生地が流し込まれたハート型が二つ。やけどに気をつけながら型をつまみ、隣同士に並んでいる二つを左右交換させる。こうすることで熱の通りのムラをなくすのだ。そう説明すると、花子が感心しながら頷いた。
本命チョコを作りたいと花子から相談を受けたのは、二月に入ってすぐのことだった。いつもは元気よくノックした後すぐ部屋に入ってくるのに、あの日は母か兄かと勘違いするような、静かなノックだった。
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