それを言うまでは

今日の夏祭り。
一緒に行こうと誘ってもらえたときは、本当に嬉しくて舞い上がっていた。浴衣を選んで、髪を結って、少しだけお化粧もほどこしてみた。

一緒に回る屋台も、一緒に見上げた花火も、あんなに楽しくて仕方なかったのに、もう終わりへ近づこうとしている。

家まで送ると言ってくれた彼の言葉に甘えた。終わりの時間を刻んでいるかのように、二人の下駄の音が響く。


あの角を曲がれば、家までもう近い。

ふいに空いている片方の手からぬくもりを感じた。手を握られていると気づいたとき、足の行く先まで違うことにも気づく。

「…無一郎くん?あの、家そっちじゃあ…」

前をゆっくり歩く背中に声をかけた。繋がれた二人の手が熱を帯びていく。
お互いの家の場所なんて遠の昔から知っている彼が、道を知らないはずがなかった。

「…今日、隣町も夏祭りなんだって。この先の河川敷で、もしかしたらそっちの打ち上げ花火も見れるかも」

「…そうなの?」

「うん。門限までまだ時間あるでしょ?行ってみよう」

「!…うん…!」
まだ一緒にいられる…!
思いがけないサプライズに心が踊った。

嬉しさで口元が緩むのを抑えきれず、ふと繋がれたままの手に視線を向けた。


………離さないのかな。

きっと汗ばんでいるだろう自身の手に不安を覚えつつ、そのことにはふれなかった。
2/3ページ
スキ