十六歳 ふたりがみつけた花

*襧豆子side*

リボンで前髪を留め、くぐらせた髪束が外れぬよう強く引っぱる。鏡の前に立ち、後ろ髪に櫛を通している自分と目が合った。その瞳はどこか暗い影を落とし、とても今日から高校生になる人間とは思えない。袖を通した高等部の制服は、今の自分に似つかわしくない新品の匂いがしていた。

「姉ちゃん、六太が呼んでるよ」
洗面所の扉から竹雄が顔を出してくると、笑顔を作って返事を返す。去っていく足音を聞き終えた後、また静かにため息をついた。

昨夜、本棚の奥からアルバムを引っ張りだしてきた。両親が保管してくれていた小さい頃のアルバムも、頼んで出してきてもらった。写真の中で成長していく自分の姿に感動しつつ、夢で会ったあの人を探した。もしかしたら過去に会ったことがあるかもしれない。もし一緒に写った写真が一枚でもあれば、思い出せるかもしれないのだ。そのわずかな希望に賭ける。

家族や友人はもちろん、転校したクラスメイトや学校の先生が写った写真も、時間をかけて順番に見入った。

しかし、どれだけ目を凝らしながら写真を見ていても、意識が切り替わるような不思議な感覚はやってこない。語りかけてくる声はないかと神経を張り巡らせても、それが聞こえてくることはなかった。

落ちつかない。心がずっと波風を立てたままで、何をしても穏やかな気持ちになれなかった。期待や緊張とも似つかないこの想いは、あの花の夢をみた日に生まれたものだった。

"襧豆子がくるのちゃんと待ってるから"

夢の中で聞いた声は、今もふと頭の中に流れる。またひとつ胸が騒いだ。あれはただの夢ではないと、しきりに頭を揺さぶられている感じがする。焦っていた。今この瞬間にも、私を待っている人がいるかもしれないことに。もうすぐで行き着きそうなのに、あと一歩が届かない歯がゆさに苛立ちすら覚える。

"また会おう"

私はいつ、どこであの手紙を読んだのだろう。私も会いたいと、願いを込めて叫んでいたのは誰に向けてだったか。

もしかしたら手紙の送り主は、夢のあの人と同一人物なのかもしれない。

ハッとして顔を上げると、やっと気づいたかと言わんばかりに、瞳から影が消え去っていた。

再びリビングから自分を呼ぶ声が聞こえる。鏡に写る自分を睨んで軽く頬を叩くと、洗面所を出た。
11/11ページ
スキ