十六歳 ふたりがみつけた花

「連絡があってびっくりしたんだよ。もう大丈夫なの?」
「あぁ、驚かせてすまなかったなぁ。花ちゃんが来てくれたから、もう心配いらん」ベッドに座る校務員さんの隣に、花子が手をついて笑顔を見せた。二人のかもしだす空気感はやわらかく、仲がよいと言っていたのは本当なのだと悟った。

「花子、ちゃんとノックして入らなきゃだめでしょ」

「あ…ごめんなさい、つい…」
「…君は、花ちゃんの…?」
花子からゆっくりと視線が外れ、校務員さんはしみじみとしたように私を見つめる。少しだけしゃがれた声を出した。

「花ちゃんによぉ似ておるなぁ」

「こんにちは。花子の姉の竈門襧豆子と申します。花子がいつもお世話になってます」

「いやいや、顔を上げてくれ。いつも花ちゃんに世話になっとるのは儂の方なんじゃ」顔に笑みを形づくり、校務員さんはそう言った。こちらの背筋が自然と伸びてしまうような、堅固な風格を背負っているこの人は、信頼できる人だと直感的に思う。目尻に流れる皺はやわらかく、苦難を乗りこえた先にある優しさに満ちていた。

「あの…お身体の方は、どうですか?」

「あと一週間は入院しないとだなぁ」
「えっ!じゃあ新学期には学校来ないの?」
今にも駄々をこねる勢いで花子が叫んだ。

「仕事しよらん方が体も頭も鈍っちまう。なぁに、ちと休んだらまた学校に顔だすさ」

「………本当?絶対だよ?」
「あぁ。今でも中庭の花や木の状態が気になって仕方ないぐらいじゃ。花ちゃんともまだ、積もる話があるしのぉ…」

再び頭を撫でてもらい、目に見えて気分の良くなった花子は、まるで本物の孫のよう。手に持っていた紙袋をベッドに置くと、中から得意げに糸で束ねた千羽鶴を取りだした。もちろん、千なんて数はない。

「おや、こりゃあまた…!」
「えへへ、家族で折ったんだよ」
様々な色を重ねた折り鶴の中には、茂や六太の折った紙ひこうきも混ざっていた。病気が飛んでいくようにと、無理やりに理由を作ったものだったけど、結果としてはいい味を出してる気がしていた。束ねた糸の先端を指に挟み、校務員さんは千羽鶴を目の前で掲げてみせる。
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