十六歳 ふたりがみつけた花

花子と仲がよいという校務員さんが入院している病院は、私たちの住んでる街から少し外れた場所にあった。バスの車窓から民家が減っていき、木や草花が活気づいてくる。バスが通るたび道路の両脇に生い茂る植物が揺れて、斜面側からは小さくなった街がおもちゃのように見えた。

花子の付き添いとして付いてきたはいいものの、大きな総合病院に入るのは自分も初めてだった。白い壁が前にも後ろにも伸びて、歩く先のところどころには曲がり角が現れる。壁に描かれた診療科の名前と番号を確認しながら、目的の病室まで歩いた。

迷路のような廊下を渡り、教えてもらったエレベーターの前まで来るとようやく安心できる。入院病棟にある見舞い人の名簿に、私と花子の名前を書いている間、花子の足はひとりでに動いていた。書き終えて歩き出す私を確認し、待ちきれないとばかりに途端に早足になる。

「お姉ちゃん、はやく!」
「花子まって。走らないで」

乾いた白い床からスリッパの擦れる音が響いて、校務員さんの入院する部屋まで一気に向かう。”108”と書かれた部屋の取っ手を、花子が勢いよくスライドして開けた。

「花子!ノック…!」
慌てて追いかけるように入っていくと、そこは個室部屋だったようだ。天井から降りている薄桃色のカーテンの奥に、ベッドとテレビが見える。

上半身を起こしベッドに座っていたのは、白髪のおじいさんだった。肩より少し長い髪をひとつに束ね、慈しみを湛えた笑みで花子の頭を撫でている。窓際にかけられたカーテンは全開に開かれ、外の光が病室の中を明るく爽やかなものにしていた。
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