十六歳 ふたりがみつけた花

「ねぇ、お見舞い行きたいよ」
「行って大丈夫なの?」

「少しなら大丈夫って聞いたもん」
花子はそう言うものの、子ども同士の会話だ。不確かなまま見舞いに行くわけにはいかず、先ほど電話をかけてきた相手の家へ、今度はこちらから母がかけ直した。

「お見舞いって何を持って行ったらいいの?」
電話の邪魔にならないよう、声の音量を下げて花子が疑問を投げる。

「そうだなぁ…花子だったら、何をもらったら嬉しい?自分が病院で一人でいるなら」耳に優しく浸透していくような声音で、父が問いかける。花子が口を結んで想像を始めだすと、夜の病室に一人で眠る光景が浮かんだのか、その恐怖に顔がひきつりだす。

「さびしくなりそうだから…さびしくなくなるような物がいいな…」

「じゃあ、手紙なんていいんじゃない?さびしくなったとき、きっと何度でも読んでもらえるよ」

スっと流れるように出たアドバイスだった。深く考えたわけでもなかったのに、口にした瞬間、意識が遠のく感覚を味わう。名案だと瞠目する妹が、まるでカメラのシャッターを切ったように、視界から一瞬だけ消えた。

───端々のよれた白い紙。中央には、横に一本線を引いたような折り目があった。何度も折りたたんでしまっては、何度も開いて読んで心に刻みつける。

『また会おう』

さらりとした紙面の感触。
私に向けて送ってくれた"彼"の言葉。

"───私も会いたい"
口は動いていないのに、勝手に頭に流れてきたこの声は、私に似ている。

「それいいね!そうするよ」
花子の声に我に返ると、再び自分の視界にはいつもの光景が戻った。試しに瞬きを行ってみても、何も変わらない。手を広げてみても、何も持ってなどいない。

そんな私の異変に気づいたのは兄だけだったということも、このときはまだ気づいていなかった───。
6/11ページ
スキ