十六歳 ふたりがみつけた花

それは一昨日の夜のことだった。夕ご飯を終えた団欒の時間に、我が家のリビングの電話がけたたましく鳴り響く。その電話はタイミングよく花子が取った。相手は花子の初等部の友人だったから、電話を引き継ぐ手間が省けた。

友人からの電話に浮き立っていた顔が、次第に神妙な顔に変わって相づちを打ち始めた。その様子にリビングの空気が張りつめていく。何事かと見守る家族に向かって、電話を終えた妹は悲しそうに眉を下げた。

仲の良い大好きな校務員さんが、入院したというのだった。その日、最寄り駅の構内ではちょっとした騒ぎになっていたと、電話があるまで知らなかった。

「駅で倒れてたってこと?」
訊くと花子が小さく頷く。そして話を続けた。

「正確には、構内でうずくまって動けなくなったらしいの。それで救急車を呼ばれて、病院に運ばれたみたい」

「そういえば、夕方頃だったかしら。救急車のサイレンがしてたわ」店のレジに立っていた母が、思い返すように言った。

「命に別状はないのか?」
一番重要で、なおかつ一番聞きづらいことを父が静かに口にする。途端、リビングに流れていたテレビの音量が小さくなった。机に向かってパズルをしていた竹雄が、いつの間にかテレビのリモコンを操作していた。

「それは大丈夫って言ってたよ。なんだっけ…えーと、しんきん…こーそく?ってやつだって」

初めて聞く言葉だ。茂の宿題を見ていた兄に思わず視線を送ると、困り顔で首を振るだけだった。父と母は知っている病気だったのか、顔を見合わせながら二人して「あぁ…」とため息を漏らしている。
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