十六歳 ふたりがみつけた花

「───ただい…わぁっ!」
賑やかな声が扉の隙間を通り抜け、廊下にまで出てきていた。リビングの扉を開けた瞬間、おでこに何かが当たって跳ね返る。それは紙ひこうきだった。ヒラヒラと目の前で落ちていく紙ひこうきは、最初真っ直ぐだったはずの先端が折れてしまっている。

「ちょっと茂!折り紙無駄にしないで!」
「あ、姉ちゃんごめん!あとおかえり!」
「おかえり〜」

「ただいま…って、どうしたのこれ」
リビングを見渡すと、色とりどりの紙ひこうきがいたるところに落ちていた。机の上に椅子の下。床はもちろん、ソファの上にまで。よく目をこらすと、テレビの後ろにまで墜落している紙ひこうきも見えた。どれだけ長く飛べる紙ひこうきを折れるか、挑戦した結果がこの有様だろう。その挑戦者は、再び新しい折り紙を手にし始めた茂に違いなかった。

「ずいぶんと派手にやったのね…」
少し遅れてリビングに入ってきた母が、半ば感心したようにため息をついた。

「あれ?花子、折るのは鶴じゃなかったの?」机に買い物袋を置きながら尋ねた。

「そうだよ、必要なのは鶴!なのにさ…」花子が不機嫌に頬をふくらませる。その不機嫌な理由に苦笑いがでた。リビングの一角にある和室の部屋で、竹雄は折り紙でなくパズルに夢中になっていた。きっと途中までは花子に協力していたであろう、傍らには二匹の折り鶴が置かれている。

「竹雄兄ちゃんは飽きたって言って手伝ってくれないし、茂はさっきから紙ひこうきで遊んでばかりなの!六太はまだ小さいからできないし…」

椅子に座る六太へ視線を移す。小さな二本足をぷらぷらと揺らしながら、末っ子の六太も折り紙に夢中になっていた。好奇心旺盛な手で、折り紙をくしゃくしゃに丸めたり、自由にテープを貼り付けたりしている。

この中で一番の戦力であるはずの竹雄が、こちらを振り向きながら叫んだ。

「なんだよ花子!俺ちゃんと手伝ったじゃないか!」

「たった二枚じゃないのよ!」

「花子、私も手伝うから。ほら、頼まれてた追加の折り紙。あと便箋、こういうのでよかった?」花子のこれ以上の激昂を防ぐため、買い物袋から中身を全部出して見せた。好きなのを選べるようにと、便箋は数種類、厳選して購入している。

「可愛いお花の便箋!ありがとう」
「お花の好きな方だって言ってたもんね」

母が夕食の準備を始めだしたのか、台所をせわしなく歩くスリッパの音が聞こえてきた。六太の隣に座り、花子は向かいの茂の隣に座る。どうにか夕食の時間までには、折り鶴を折ってしまいたい。花子たちの背の奥で、パズルをしている竹雄に声をかけた。しぶしぶ腰を上げる次男に、妹が口を尖らせる。

「私が言っても聞いてくれなかったのに…」
「パズル、誰もさわっちゃ駄目だかんね!」
「さわらないから、早くこっちに来て手伝って!」

「なかよくしなきゃだめだよー」
のんびりとした口調で六太が言った。折り紙に集中して家族の会話を聞いている風には見えなかったのに、しっかりと聞いていたらしい。新しい紙ひこうきを折った茂が、ふっと吹きだした。
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