十六歳 ふたりがみつけた花

車窓からの日差しに目を細め、母がサンバイザーを下ろした。つられるように助手席側のサンバイザーも下ろす。しかし長さが足りず、完全に日差しを遮断することはできなかった。

再び目線を手元の機器に戻した。車窓から降り注ぐ日光に照らされて、買ってもらったばかりのスマートフォンが反射して光っていた。つるつるの光沢と、汚れ一つない画面。まだ待ち受けも設定していないホーム画面は、店頭で見たときと変わらない。並べられたアプリを適当にタップして、なめらかに指を動かしていた。そんな私を横目で見ながら、車を運転する母が口を開いた。

「はやいわねぇ、襧豆子ももう高校生になるのね」

「エスカレーター式だから、全然実感ないけどね。中等部も高等部も同じ敷地内だし。それよりお母さん、スマホありがとう」

母が笑顔で頷く。


───春休みも半ば。
買い物に行くから付き合ってほしいと、母にそれだけを告げられ、いつものように車へ乗り込んだ。てっきり食材の買い出しだと思っていたのに、車は普段利用するスーパーとは逆方向へと走っていく。一体どこに向かっているのかと尋ねてみても、母は意味深に微笑むだけだった。

車は携帯ショップの敷地内へと入っていった。入店すると、目移りするほどのスマートフォンを前にしたところで、母が振り向きながら言った。『襧豆子の高校生デビューのお祝い。好きなの選びなさい』そう言われ、おもむろに手を伸ばした新品のスマートフォンを、今私は操作している。

「帰ったらお父さんにもお礼言っとくのよ」
「うん」

「…それにしても、意外だったわねぇ」
「?なにが?」
操作する指をとめ、母の横顔を見つめた。

「スマホ。てっきり襧豆子はピンク色を選ぶと思ってたのよ。そのエメラルドグリーンも大人っぽくて綺麗だけど、襧豆子にしては珍しいなと思ってね」

「…うん。そういえばそうかも」
スマホを裏返してみる。エメラルドグリーンの光沢に、自分の顔がうっすらと写っていた。母の言う通り、思えば昔から自分の持ち物にはピンク色が多かったと思う。文房具にしろアクセサリーにしろ、ピンクやそれに近い色味の物に囲まれていた。そんな自分が初めて違う色を選んだかもしれない。

なぜだかこのエメラルドグリーンがすごく魅力的に見えて、自然と手に取っていたのだ。気まぐれなのか、ただ好みが広がったのか、それは自分でもわからなかった。

「まぁ、成長と共に好みも変わるわよね」
高校生になるもんね、と先ほどと同じ言葉を繰り返した後、母はからかうような笑みを見せた。

「高校生になって彼氏ができたら、お母さんにも紹介してね」
「!?なっ、何言ってるの!」

「できたらの話よ」
「っ、…そんな予定ないってば」

「あら、わからないじゃない」
すると会話を遮るように、鞄の中でスマホの呼出音が鳴り出した。私の新しいスマホではなく、母のものだ。持ち主の代わりに電話を取ると、音量を最大にしたような花子の声が飛び出てきて、耳元から受話口を遠ざけた。
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