居場所

「な、なんで!?帰ってくるの夜だって言ってなかった!?」

「予定よりはやく済んだから、はやく帰ってこれたんだよ」

早足で家中を逃げ回る襧豆子の後ろを、ゆっくりと付いていく。長い髪とサイズの合ってない隊服が揺らめいていた。全然追いつけるし、すぐ捕まえられるけど、可愛いからまだ何もしないでおく。

「ねぇ、なんで逃げてるの?あと、それって僕の隊服だよね?」

「………無一郎くんが追いかけてくるから!」
パタパタと足音を響かせ走り回る姿が、鬼だった頃の襧豆子と重なった。

「襧豆子が逃げるからでしょ。なんで隊服着てるの?」

「着てない…羽織ってるだけ」
袖を通しておいて、思いきり着てるじゃないか。真っ赤な顔をして、らしくない下手な言い訳を言ってる彼女は、やっぱり何よりも愛らしい。自分一人しかいないこの家で、押し入れからわざわざ引っぱりだしてきたのだろうか。想像するだけで、だらしないぐらい口元がむずむずしてくる。

「もしかして、僕の留守中ずっとそれ着てたの?」

「ずっとじゃないよ!着てみたのは今日が初めて──あっ」手のひらで口元を抑える襧豆子を後ろから抱きしめた。そのまま抱えあげて向かい合うと、橙色の毛先が頬を撫でてくる。


「照れなくてもいいのに」

「…だって…」

「さびしかった?」

「………うん」
急に素直になった彼女から不意打ちをくらった。こういうところ、本当にずるいと思う。
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