居場所
何をどう捉えたのか、上機嫌な笑みを浮かべた目の前の遊女。青白い手を伸ばしながら口を動かしているが、何も耳に入ってこなかった。
「………着物」
ぴたりと手が目の前でとまる。
「………え?」
「綺麗な着物ですね」
それを聞いた遊女は、脱ぎ落ちた自身の着物を振り返った。途端に頬がゆるみだし、意気揚々と話しだした。
「あぁ、あれ…わっちが一番気に入っている着物なんです。一度破れてしもうて、もうお客の前では着れないって嘆いてたら、修繕に出してくれたんです。そしたら新品同様に綺麗になって戻ってきて…」くだけた口調で、嬉しそうに語る遊女の後ろで、懸命に着物と向き合っていた襧豆子の姿がよぎった。
「それ、妻が聞いたら喜びます」
「そうですか、奥様が………え、妻?」
空気が抜けたような声で聞き返す遊女。襦袢の片側がズルリと下がった。
「家で一生懸命繕っていました。妻は手先が器用なんです…荷も見当たらないので、仕事に戻ります」
会釈をして踵を返した。呼び止める声が追いかけてきたが、もう頭は明日のことしかなかった。
はやく襧豆子を抱きしめたい。
はやく彼女の名前を呼びたい。
はやく、あの笑顔がみたい───。
襧豆子の面影を追いかけるように、自然と早足になっていた。
「………着物」
ぴたりと手が目の前でとまる。
「………え?」
「綺麗な着物ですね」
それを聞いた遊女は、脱ぎ落ちた自身の着物を振り返った。途端に頬がゆるみだし、意気揚々と話しだした。
「あぁ、あれ…わっちが一番気に入っている着物なんです。一度破れてしもうて、もうお客の前では着れないって嘆いてたら、修繕に出してくれたんです。そしたら新品同様に綺麗になって戻ってきて…」くだけた口調で、嬉しそうに語る遊女の後ろで、懸命に着物と向き合っていた襧豆子の姿がよぎった。
「それ、妻が聞いたら喜びます」
「そうですか、奥様が………え、妻?」
空気が抜けたような声で聞き返す遊女。襦袢の片側がズルリと下がった。
「家で一生懸命繕っていました。妻は手先が器用なんです…荷も見当たらないので、仕事に戻ります」
会釈をして踵を返した。呼び止める声が追いかけてきたが、もう頭は明日のことしかなかった。
はやく襧豆子を抱きしめたい。
はやく彼女の名前を呼びたい。
はやく、あの笑顔がみたい───。
襧豆子の面影を追いかけるように、自然と早足になっていた。