居場所

───遊郭の夜は長い。

遊女たちはもちろん、影で支える使用人たちも、皆がせわしなく動き回る。自分の仕事はほぼ裏方の力仕事だが、たまに文使いとして遊女からの手紙を客に届けに行くこともある。度を越した酔っ払い客や、色恋沙汰で遊女に手を上げそうな客をつまみだす仕事も、まれにあった。いつもは乗り気でない仕事も、今日だけはやる気がでる。

今日で遊郭での仕事はおわり、明日やっと家に帰れるからだ。結婚して初めて家を離れるわけだったから、自分の留守中に何か起こらないか、正直心配でたまらなかった。宇髄さんの奥さんたちや、蝶屋敷の女の子たちにも声はかけておいたし、何かあれば銀子に僕のところへ伝達へ来るようにも頼んだ。

子どもじゃない!と襧豆子はムッとしていたけど、子ども大人の問題ではないのだ。

こんなにも長く感じるなんて思っていなかった。
たった二週間、されど二週間。今頃襧豆子は何をしているのだろう。さびしがっていないだろうか。そんなことばかりを考えていた日々が、明日にはようやく終わる。やっと愛しい人のところへ戻れる喜びから、気分よく廊下を歩いていると、あちこちから視線を感じる。すれ違う者、障子を少しばかり開けて中からのぞいてくる者。この視線にもだいぶ慣れた。

ここに来た初日から、遊女や使用人の女性たちからの視線には気づいていた。敵意ではなかったので気にはとめなかったが、自分が前を通りすぎただけなのに甲高い声を上げているのはよくわからない。

宇髄さんに何となく話してみると「………まぁ気にするな」と長い間の後にそれだけ言われた。
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