居場所

*無一郎side*

夕方の業務を終え、店の人が用意してくれた食事を口にする。きっと美味しいはずなのに、あまり味は感じない。店の一部屋を寝床として用意してくれたこの場所で、なぜ自分は宇髄さんの顔を見ながら食事しているんだろう。人々が慌ただしく廊下を行き交う音が、部屋の外から聞こえる。もう少ししたらまた忙しくなってくるので、ひと足先に食事についているわけだが…。

髪を下ろした派手柱の顔をじっと見ていると、苦笑いで宇髄さんが話し出した。

「…だから悪かったって何度も言ってるだろ」
男前が台無しだぞ、なんて茶化してきても何一つおもしろくはなかった。

「わざわざ新婚の俺に声をかけてくるって、嫌がらせ以外の何があるんですか?」

「襧豆子が世話になっている店だぞ?それに、お前が前に話してた…上杉っていったか?その男の情報提供してくれたのはこの店の主人た。恩はあるだろ?」そう言われてグッと口ごもってしまう。

この人の言っていることは正論だ。それに、いくら鬼殺隊時代からの貯金があるとはいえ、全く仕事をしないというのはあまりにも情けない話だ。一人でいるならば十分すぎるほどのお金はあるが、襧豆子と籍を入れたからにはそうはいかない。こうして仕事の話をもらえることも、本来はありがたく受け止めるべきだということは理解している。


けれど…。

「…二週間って長いですね」
憂鬱な気分を隠さず、素直に口にする。
また宇髄さんが苦笑いを返した。

「不死川さんや冨岡さんは、誘わなかったんですか?」

「もちろん声かけたぜ?それがよぉ、おもしろいんだぜ、あいつら…」その時を思い出したのか、くっくっくっと堪えきれないように笑いながら話を続けた。

「二人で旅行に行く予定があるから無理だってよ」

「んぐっ!」
噛んでいる途中だった煮物を、危うく吹き出しそうになった。
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