居場所

ゴツッと鈍い音と共に頭に衝撃を受けた。
狭くて低い押し入れの中は、天井の高さがわかりづらい。痛む頭を押さえながら目当ての物を探す。

確かこの洋服箪笥にしまったはずだと、両手を突っ込み中を漁る。手のひらで生地の質感を確かめながら、一枚また一枚とかわしていく。箪笥の底まで近づいてくると、手応えのある生地をやっとつかまえた。

下からゆっくりと崩れないように取りだす。
明るい部屋に出て広げてみると、懐かしい記憶と共に胸が鼓動を打ち始めた。

「あった!無一郎くんの隊服!」

袖まわりが緩やかに作られた、彼ならではの隊服。目の前で広げて高々と掲げてみると、鬼殺隊時代の彼の姿がいとも簡単に浮かびあがる。記憶をなくしていた頃の無一郎くんを、私はよく知らない。後から聞けば、鬼だった私が太陽を克服したのと、無一郎くんが記憶を取り戻したのは、同じ時期だったらしい。

鬼の頃の記憶の中では、優しい笑顔を浮かべていた彼。鬼との戦闘をきちんと見たことはないけど、鍛錬をしている姿は明確に覚えていた。一切無駄のない動きと太刀筋。自身よりも大きめに作られた隊服が、刀の動きと一緒にゆらりとなびいて…今思えばとても不謹慎かもしれない。だけどあの時は、幼子な精神ながらに、その姿をとても美しく感じた。

鬼殺隊が解散した今では、もう隊服を着ることも刀を握ることもなくなったけど。霞柱として、たくさんの人々を救ってきた彼が今は私の夫となっているのだから、本当に不思議だと思う。

それもこれも、
生きて帰ってきてくれたからこそ──。

気づけば隊服を抱きしめていた。
まるで彼を抱きしめるように。
ずっとしまわれていたし、今はもう着ていないのに、無一郎くんの匂いがした気がした。

「…はやく帰ってこないかな。無一郎くん」

自分しかいない部屋で静かにつぶやいた。
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