君よ進め

小引き出しの一段目に手紙をしまうと、次に二段目を開けた。残りが数粒だけになってしまった金平糖の小瓶。取りだし揺らしてみると、中の金平糖が転がって、からからと音をたてた。

初めて無一郎くんと町へおりた日、彼にもらったものだった。小瓶が壊れないよう、そっと抱きしめる。

手紙が途絶えた今、無一郎くんと過ごした日々を繋げてくれるのは、この金平糖だけ。最後まで食べきってしまったら、全部なかったことになりそうで怖かった。いつしかお守りのような存在になって、いまだに祈るように眺めているけど、手紙はこないままで、無一郎くんとも会えていない。

自分は大きな勘違いをしていたんだ。
彼が自分に向けてくれる優しい瞳は、きっと特別なものだと。直接言葉にされたわけでもないくせに、自惚れて、きっと同じ気持ちだと勝手に思い込んでいた。


ふれてくれた肌のぬくもり。
引き寄せてくれた大きな手。
女の子みたいな顔立ちなのに、骨ばった手や肩は、私とはちがう、男の子のもの。

あの胸に飛びこんでいきたい、だなんて、そんなばかなことを考えてしまうほど───。

───無一郎くんに惹かれてたまらない。

頬を両手のひらで包み込む。頬から手に伝わるぬくもりを感じ、必死で彼の熱を記憶から蘇らせた。


───無一郎くん。
私、求婚されたの。

そう言ったら、彼はどんな反応をするだろう。よかったねって言うかな。おめでとうって言うかな。

それとも………───。

目頭に熱が宿って、視界が揺れだす。一筋の涙が頬を伝い、こぼれ落ちていった。この期に及んで、まだ期待を抱こうとしている私は、本当に愚かで、最低な人間だ。
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