君よ進め

「僕も、長くて二十五歳までしか生きられないので。短命の自分が誰かに想いを告げるのは…ただのひとりよがりです。告げられた人にとっては…重荷を感じさせるだけです」

襧豆子の笑顔がすぐに浮かんだ。どう考えても、無責任にしかならない。あの笑顔が悲しみに変わるのは、もう見たくなかった。

「普通の人がいいに決まってます。長生きできる、普通の人が…」

「どうしてそう思うんだァ?先のことなんざ誰にもわからねぇのによォ」

「………え」
不死川さんがそんなことを言うことに驚いて、言葉が詰まる。かつて炭治郎に父の面影を見たときと、同じ感覚が湧き上がった。


「それにさっきから聞いてたらよォ、竈門妹がおまえに対して、どう思ってるのか確認はしたのか?」

「………してません」

「仮に、だ」
不死川さんの人差し指がぴんと伸びて、僕を指した。

「おまえが短命だと知った上で、それでも一緒になりたいと竈門妹が望んでいる線があるとしよう。そしたらおまえどうする?」

「…そんな虫のいいこと…」

「仮にだよォ。竈門妹の気持ちを、おまえはどう受けとめる気だァ?」

「離しません。絶対に」

気持ちを見透かそうとする鋭い視線を受け、躊躇うことなく言葉を紡いでいた。嘘偽りない自分の本心だ。それはあまりにも、都合がいい未来だけれど。

「…まだ遅くねぇだろ。おまえが竈門妹をさらってきて、あいつが泣いて嫌がっていたら…」

元風柱の口元が、弧を描いた。

「おまえをぶん殴ってでも止めてやるよ。だから安心して、かっさらってこいやァ」

張り詰めていた心が、ゆるゆるとほどけていく。ずっと堪えていたものが溢れて、涙に変わってしまいそうだった。

諦めなきゃいけない。望んではいけない。
優しい言葉なんてかけないでほしい。
決心が揺らぐようなことを言わないでほしい。

でもその後ろで、本当は誰かに背中を押してもらいたかった。先の未来などわからないと。誰かにそう言ってもらいたかった。自分はやっぱりまだ子どもなんだと、認識せざるを得なかった。

涙を見られたくなくて俯いてしまう僕の頭に、大きな手がそっと乗せられる。本当に兄という生き物は、不器用であたたかい人ばかりだと思う。目頭が冷めるまでしばらくかかったけど、不死川さんはその間、何も言わなかった。

「…竈門妹じゃなくて、襧豆子です」
精一杯の強がりでそれだけ言うと、頭をくしゃくしゃと撫で回された。
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