君よ進め

太陽が顔を出しているにも関わらず、どこかほの暗くて空気も冷たい。冬の匂いが濃くなってきたのを感じていた。好きだったイチョウの時期も終わり、葉がすべて落ちきった木々たちが、寂しげに立っている。

煉獄さんの家を訪ね、挨拶をすませた後、煉獄家が所有する土地に入らせてもらった。

通りすぎる風に身震いしながら、目的の場所まで歩いていく。しばらくすると、開けた場所に出た。堂々と仁王立ちするかのような、立派な墓が建てられてある。墓石には"煉獄"と刻まれていた。

手入れの行き届いたお墓に近づいていくと、先客の姿が見える。

「…不死川さん」

「…よぉ、時透か。久しいなァ」
墓前にはおはぎが供えられていた。誰が供えたのかはあえてふれず、おはぎの隣に持ってきた花束を添えた。おはぎより、花束より、もっと食べたいものや欲しいものが、煉獄さんにはあるだろう。不死川さんも同じことを思ったらしい。

「サツマイモの方がよかったかもなァ」

「熱々の牛鍋も、喜びそうですね」

「ハッ、確かにな。さすがにそれを持ってくるのは難しいが」

不死川さんは以前に比べ、表情も雰囲気もやわらかくなった。まるで憑き物でも取れたように思えるが、本来の不死川さんに戻っただけなのだろう。

墓前に屈んで、二人で手を合わせた。幾分経った頃、不死川さんが気遣うようにつぶやいた。

「おまえ、体調の方に変化はないのか?」

「…今のところは。不死川さんはどうですか?」

「…俺も今んとこ、変わりねぇなァ」
ふいに聞いてみたくなった。どういう気持ちで、今世を生きているのか。何を想い、日々を過ごしているのか。少し言い淀んだけど、それでも聞きたかった。

「不死川さんは、自分が短命なこと…どう思っていますか?」

「…痣のことかァ?」

「はい」
おもむろに不死川さんが立ち上がる。目で追っていると、懐からおはぎを一つ取り出してきた。思わず手を出すと、ストンと手のひらにおはぎが収まった。

「…ちと話すか」
そう言って歩きだす彼の後ろへ、僕も続いた。
2/18ページ
スキ