想いの行く末

視界が歪んで、崩れ落ちそうになるのをこらえる。額にやわらかいハンカチがふれ、襧豆子が心配そうに僕を見つめていた。

「…無一郎くん、ひどい汗。顔色も悪いし…どうしたの?気分悪い?」

「……大丈夫。でも、ごめん。そろそろ帰るよ」

「ひとりで帰れる?私、お兄ちゃんたちと待ち合わせてるから、一緒に…」

「大丈夫。ひとりで帰れるよ」
いささか強引に襧豆子の言葉を遮って、歩きだそうとした瞬間、足元がふらついた。襧豆子が支えるように体を寄せてくる。

「ほら!無理しないで!一緒に帰ろう」

彼女の言葉が頭に響いた。
一緒に帰る。そうは言っているけれど、僕と襧豆子の帰る家は違う場所にあるんだ。その事実に、ただ悲しい気持ちになった。

「…ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」

あれだけ望んでいた手を、夢見ていた手を、僕を支えてくれる手を、そっと離した。

彼女の泣きそうな表情が見れない。
少し遠くから、炭治郎の声が近づいてきた。

「襧豆子ー!」

「お兄ちゃん…」
「ごめん、もう行くね」
炭治郎にも合わす顔がなくて、逃げるようにその場を走り去った。

また手紙書くからと襧豆子の声が追いかけてきたけれど、返事ができない。ただ振り返って、下手くそな笑みを返すしかできなかった。
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