想いの行く末
納品の帰りだったという二人と、町から少しはずれた土手の上に来ていた。
見晴らしがよく、道の端にはいくつかの柳の木があり、うっすらだがこの光景に見覚えがあった。昔、任務で来たことのある場所だ。当時来たのが夜だったから、すぐには気づけなかった。
「ここで私たちは、鬼に襲われたんです」
しなだれた葉に近づき、佳代さんがぽつりぽつりと話し始める。
「仕事が忙しく、行き詰まっていた私を気遣い、主人が夜の散歩に連れ出してくれたんです。月がきれいだからと…本当に一瞬でした。隣を歩いてた主人が、突然うずくまったと思いきや、背中から赤黒い血が流れていました………そして、暗闇の中から現れたのは………化け物でした」
絞り出すような声は震えていた。恐怖と怒りでおかしくなってしまいそうな感情は、自分にもある。声をかけようか迷い襧豆子へ目配せすると、静かに首を振った。佳代さんの話を聞こう。そう言っている。
「主人は…即死だったと思います。なぜ主人が血だらけなのかも、目の前の化け物が一体何なのかもわからず…初めて死を間近で感じました。そして…今度は私が襲われそうな所を…あなた様に救われたのです」
「……いえ、僕は何も。むしろ、僕がもっと早く駆けつけていれば、ご主人を救えたかもしれないのに………ごめんなさい」
任務をこなしていく中で、幾度となく感じた思いだ。自分がもっと早く来ていれば、救えていた命。一分一秒でも早くと力走しても、間に合わなかったことなんてざらにある。
どうしてもっと早くに来てくれなかったんだ。
理性を失った人から、そう罵られたこともあった。
「滅相もありません!あのときは気が動転していたので、まともにお礼を言えないままでしたので………本当に、ありがとうございました」
深々とお辞儀をする姿は、今にも壊れてしまいそうなほど儚く小さかった。襧豆子が佳代さんに駆け寄り、背中をさする。下を向いている佳代さんへ聞こえるように、屈んで声をかけた。
「お礼を言われるようなことはしていません。佳代さんだけでも助けられて、よかったです」
佳代さんの肩が小刻みに震えだした。やがて嗚咽を漏らしながら、主人への思いを吐露する。
体の弱い自分を、いつも気遣ってくれるご主人だったこと。年老いても仲睦まじい夫婦であろうと話していたこと。こんなに早く別れがくるなんて、思っていなかったこと。
それは、残された者の悲痛な叫びだった。
見晴らしがよく、道の端にはいくつかの柳の木があり、うっすらだがこの光景に見覚えがあった。昔、任務で来たことのある場所だ。当時来たのが夜だったから、すぐには気づけなかった。
「ここで私たちは、鬼に襲われたんです」
しなだれた葉に近づき、佳代さんがぽつりぽつりと話し始める。
「仕事が忙しく、行き詰まっていた私を気遣い、主人が夜の散歩に連れ出してくれたんです。月がきれいだからと…本当に一瞬でした。隣を歩いてた主人が、突然うずくまったと思いきや、背中から赤黒い血が流れていました………そして、暗闇の中から現れたのは………化け物でした」
絞り出すような声は震えていた。恐怖と怒りでおかしくなってしまいそうな感情は、自分にもある。声をかけようか迷い襧豆子へ目配せすると、静かに首を振った。佳代さんの話を聞こう。そう言っている。
「主人は…即死だったと思います。なぜ主人が血だらけなのかも、目の前の化け物が一体何なのかもわからず…初めて死を間近で感じました。そして…今度は私が襲われそうな所を…あなた様に救われたのです」
「……いえ、僕は何も。むしろ、僕がもっと早く駆けつけていれば、ご主人を救えたかもしれないのに………ごめんなさい」
任務をこなしていく中で、幾度となく感じた思いだ。自分がもっと早く来ていれば、救えていた命。一分一秒でも早くと力走しても、間に合わなかったことなんてざらにある。
どうしてもっと早くに来てくれなかったんだ。
理性を失った人から、そう罵られたこともあった。
「滅相もありません!あのときは気が動転していたので、まともにお礼を言えないままでしたので………本当に、ありがとうございました」
深々とお辞儀をする姿は、今にも壊れてしまいそうなほど儚く小さかった。襧豆子が佳代さんに駆け寄り、背中をさする。下を向いている佳代さんへ聞こえるように、屈んで声をかけた。
「お礼を言われるようなことはしていません。佳代さんだけでも助けられて、よかったです」
佳代さんの肩が小刻みに震えだした。やがて嗚咽を漏らしながら、主人への思いを吐露する。
体の弱い自分を、いつも気遣ってくれるご主人だったこと。年老いても仲睦まじい夫婦であろうと話していたこと。こんなに早く別れがくるなんて、思っていなかったこと。
それは、残された者の悲痛な叫びだった。