想いの行く末

「無一郎くん!」

自身の名を呼んでくれる彼女の声を、久方ぶりに聞いた。襧豆子たちが故郷へ帰った、あの日以来だ。彼女のはじけるような笑顔に、涙腺が緩みそうになってしまう。

「久しぶりだね!元気にしてた?」

「元気だったよ。襧豆子も、炭治郎たちも元気?」

「みんな元気!嬉しいな。まさか町中で会えるなんて」

「…襧豆子ちゃん。お友達?」
襧豆子の後ろから、背丈の小さい女性がゆっくりと顔を出してきた。四十代ぐらいで、何となく品のある女性だと感じる。

「あ、はい。無一郎くん、この人は佳代さん。私がお世話になってる仕立て屋の女将さんなの」

襧豆子に紹介され、佳代と呼ばれた女性が軽く頭を下げた。ならってお辞儀を返す。仕立て屋というのは、以前手紙に書いてあった仕立て屋のことだろう。裁縫が得意な彼女にぴったりだと、そのときに思った。

「こんにちは。あの、襧豆子さんの友人の…」

挨拶しようと顔を上げると、佳代さんは僕の顔を見るなり、はたと動きをとめてしまった。何かを思い出そうとするように凝視し始め、その様子に襧豆子が首をかしげる。

「…あの…?」
どうかしましたか。言いおわる前に、佳代さんが飛びつくように僕の手を握りしめてきた。

「あなたは…!あのときの鬼狩り様…!」
佳代さんの顔が徐々に悲痛な表情に歪んできて、目に涙が浮かびあがる。

鬼狩り。そう呼ばれたことも久方ぶりだった。
僕と襧豆子は顔を見合わせ、泣きだしてしまった佳代さんにただただ困惑していた。
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