想いの行く末

箱に黒い布地が敷かれ、穴のあいたくぼみが並ぶ。そこに様々な種類の指輪が、整列するように差し込まれていた。

後ろにいる僕に気づいた男性客が、軽くお辞儀をして離れていく。近づいてよく見てみると、その小ささと種類の数に驚いた。

色鮮やかなものや、簡素なものまで、豊富に取り揃えられている。真っ先に目を奪われたのは花の形をした指輪だった。白く輝く宝石が中央に嵌めこまれていて、その宝石を囲う花びらと思わせる銀細工が形よく施されていた。

眺めてしばらくしていると、店員が歩み寄ってくる。

「そちら、今若い女性に大変人気なんですよ」
「…そうなんですか」

「はい。…恋人さんへの贈り物でしょうか?」

すぐさま襧豆子の姿を思い描いてしまって、一気に体温が上昇していく。男が宝飾店で指輪の棚を見ていたら、そうなるだろうに。

自分の場合、まだ恋人ではない。
これからそうなりたい相手だった。

「いや、その………まだ………」

歯切れ悪くそう答えると、満面の笑みだった店員が更に目尻を深くした。

こちらからお願いせずとも、店員は指輪の説明を始めだした。流行りのデザインのものや、贈り主の雰囲気までも聞かれ、それに見合ったものを何種類か出してくる。

様々な指輪をみせてもらっても、最初に目にとまったあの指輪が、やはり襧豆子に一番似合うと思った。職人の精密な技術によって造られた、ひねり梅の指輪。

薬指に梅の花を咲かせる襧豆子を見れたらと、ひそかに祈った。

これにします。
そう言いかけて、財布を出そうとした手が止まる。
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