想いの行く末

襧豆子と炭治郎が、故郷の山へ帰る日。
見送りには大勢の仲間たちが集まっていた。

冨岡さんや宇髄さんご夫婦はもちろん、不死川さんは姿は見えないものの、建物の物陰から気配を感じた。馴染み深い面々は全員揃っており、その数は竈門兄妹の人の良さを示していた。

襧豆子に抱きつく蝶屋敷の子たちや、炭治郎と握手を交わす刀鍛冶のみんな。

どうせまたすぐ会えるのに、大袈裟すぎやしないか。微塵もそんなこと思ってないのに、無理やり思いこもうとしていた。

そうだ。すぐにまた会える。
今日のことを知ったときから、何度も自分に言い聞かせていた。

各々が別れの挨拶を交わしてる中、皆の中央にいる襧豆子と目が合う。いつもの明るい笑顔で、こちらに駆け寄ってきた。

「無一郎くん」
「襧豆子…元気でね」

「ありがとう。無一郎くんも元気で。また手紙書くね。遊びにもくるから」

「うん。僕も書くよ」

どちらかともなく、手を伸ばしていた。
最後にそっと握手を交わす。彼女と手がふれあう度、胸にはあたたかい気持ちが広がっていたのに。最後の手だけは冷たいままだった。


行かないで。

喉元まできていた言葉を、なんとか飲みこんだ。襧豆子の手を引いて、このままどこかへ走り去ってしまう自分の姿が脳裏に浮かんだ。襧豆子や炭治郎の悲しみに満ちた顔を想像することで、それも何とか振り払った。

ゆっくりと手を離し「またね」と伝えるだけで精一杯だった。

竈門兄妹は、何度も振り返りながら皆に手を振っていた。仲間たちの見送りの言葉がやまず、律儀で真面目な兄妹は、姿が見えなくなるまで振り返るのだろう。

想い人の背中は小さくなって、やがてその場には誰もいなくなった──。
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